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「なんば」歩き考
日本古来の歩行法を検証する。
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■幕開けの前に
唐突ですが、まず上の2つの絵を見て下さい。これはアメリカで最も人気のある画家の一人、ノ−マン・ロックウエルの描いた絵です。少し誇張はありますがリアリティ−に富んだ生き生きとした絵です。でも、よく見て下さい。何かがおかしいのです。そうです。歩き方が変なのです。右の絵の二人は右手右足を同時に前に出して歩いています。左の絵は左手と右足が前に出ています。
■幕開け
現在の私たちと芭蕉の時代の人々の歩き方はだいぶ違っていることは案外知られていない。いつ頃変わってしまったのかといえば明治時代のこと。西洋式軍隊をつくるために義務教育の一環として現代歩行法の教育を行った結果であると言われている。
日本古来の歩き方は当時の生活や文化が作り上げてきた結果であったはずだが現代ではすっかり忘れ去られてしまっていて、いくつかの伝統芸能の中に形見のように残っているに過ぎない。
日本の文化に関する問題を語る場合にこの歩行法の違いを理解していなければ、当時の生活をきちんと理解することはできないかも知れないという疑問からここで改めて、日本古来の歩き方の検証を行うこととした。
■「なんば」歩きの定義
いろいろな資料によると「なんば」歩きというのは「右手−右足」「左手−左足」を組にして歩く方法で、一般的には小学校に上がったばかりの子供が、緊張のあまりギクシャクと歩く滑稽な歩行法と言われて、もっぱらからかいの対象にされているだけである。こんな歩き方は不合理きわまりないと決めつけられている。考えてみれば、実に不思議な現象であると言えないだろうか。
江戸以前の絵巻物に書かれている人物の歩き方を注意してみれば、例外なく「なんば」歩きという歩行法で書かれているのに、「封印された文化」のように現代の記憶からはバッサリと欠落している。実に奇妙なことと言わざるを得ない。
「なんば」歩行法を検証するに当たって「なんば」歩行法とは、絵巻ものに描かれた人物あるいは歌舞伎や能の所作から総括的に考えて腰部分が捻れない、あるいは捻れが極めて少ない歩行法であると定義した。
腰を捻らないで速く歩く場合、腕を曲げていると右足の出に合わせた右腕の振りは付いていけるが手をダラッと下げて速歩をすると手先の揺れは当然遅れ、一見現代歩行風に見えないこともない。しかし、肩は足に付いていくので腰の捻れは少ない。この歩行法を実践する場合、背にリュックを背負っていると感覚がはっきり解る。
■現代考えても腰を捻らないで歩き方が楽な状況を列挙すると以下のが考えられる。
武士が刀を腰に差している場合
武士が弓や槍を持って走る場合
飛脚が文箱を担いで走る場合
農夫がクワを担いで歩く場合
行商人が天秤棒で荷を担いで歩く場合
石伝いに川を飛び越す場合
登山者が重い荷を担いで登る場合
荷を背負って長距離を歩く場合
和服の裾を乱さないように歩く場合
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■歩行法の違い比較一覧表
現代歩行法 参照:アメリカの画家、ノ−マン・ロックウエルの
「スカートとズボン(上の写真左)」
スピ−ドが上がると一本の線の上を歩ける(足跡は1本線)
スピ−ドが下がると一本の線を跨いで歩く(足跡は平行線)
腰を中心に体が捻れる
胸を張って歩ける
歩幅を大きくして歩ける
手に物を持ったり、背に荷物を背負って歩くのに不便
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「なんば」歩行法 参照:江戸期以前の絵巻物
スピ−ドが上がると一本の線を跨いで歩く(足跡は平行線)
スピ−ドが下がると一本の線の上を歩ける(足跡は1本線)
体はほとんど捻れない
幾分前屈みで歩く
歩幅はあまり大きくならない
手に物を持ったり、背に荷物を背負って歩くのに便利
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■現代からの疑問
最近ウオーキングが流行している。また、伊能忠敬の業績が大きくとりあげられている。それなのに、調べてみると伊能忠敬の歩幅については諸説あるようだ。
インターネットで検索した結果では
90cm 説
69cm 説
が主流のようだ。
伊能忠敬の測量は原則的には機械を使って計測しただろうから、歩測は補足に過ぎないのかも知れない。しかし、これだけ歩幅が違っては歩測の結果は全く違ってしまう。
伊能忠敬の背丈は160cmと言われている。私の背丈は162cmで似た背丈なので、私の歩行デ−タを参考として伊能忠敬の歩行デ−タを推理して行く。
私の歩行スピ−ドは1kmを10分(時間6km)で、現代歩行法で歩く時の歩幅は75cmだ。この時間と歩幅の関係は10年以上狂っていない。一日40kmを連続的に歩く場合でも誤差は2〜3%で安定している。
人間の歩行のリズムはもともと安定しているのだろうと推測している。
実際に長距離を歩いてみれば簡単に判ることであるが、ある程度のスピ−ドにのって歩かないと疲れやすいものである。ある程度の早さとは通常より少し速い速度である。
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この自分の経験からして伊能忠敬90cm説も69cm説も常々疑問に感じていた。
昔の人のスピードは普通で1刻3里程度は歩けたのだから私と同じ歩行法では歩幅は70cmは越えているはずと思えてならない。
現代人と違って伊能忠敬の時代には通常では
<絶対時計>
は使えなかったはずなので、私のように1km/10分という時間と関係する目安は使えなかったと考えられる。
私の経験から考えると、歩幅が安定すればスピ−ドは若干変えても歩測には支障がでない。例えば1km/11分でも1km/9分でも大幅な違いは生じないようである。しかし、現代の歩行法で歩幅を90cmあるいは69cmに調整して1日40km以上の距離をコンスタントに歩き続けることは無理があると思う。
ただ、昔の歩行法「なんば」歩きなら69cm歩行は「可能かも知れないと」漠然と考えていた。
■いよいよ「なんば」歩きに挑戦
「なんば」歩きは難しい。現代の歩行法から切り替えがなかなか出来ない。
「右手右足を同時に出す」とか「腰が動かないように歩く」とか「幾分腰を落として歩く」とかの言葉と絵巻物しか残っていない現在では復元しようという気も起こらない。それで長い間、疑問のまま放置していた訳である。しかし、最近ひらめきがあった。
「できるかも知れない」
そこで実験を始めた。
両手をダラリと下げて動かさずに歩く。これは問題なく歩けるが肩がどの様に動いているかよくわからない。
次に
左手に本を持って右手を意識しながら、右足の
出に合わせて右手を同時に前に振って歩く。
これは旨くゆく。肘を曲げて肩は入れずに右腕の振りを右足に
合わせに突き出す。お!うまくいく???ん?
これは。。。空手の「突き」の型だ。
昔々とはいえ一応有段者だった者とすれば
解ってしまえば簡単だ。突きの右左連続技の応用で
コブシを左右繰り返しで突き出せば
勝手にずんずん進んでゆく。当然腰や肩の揺れはない「はず」。
考えてみれば空手にしても剣道にしても「なんば」歩行法だったのである。
■「なんば」歩き超簡単速習法を工夫する
準備 リラクスして少し(肩幅程度)両足を開いて立つ
1.武士になったとイメージする
2.左手を腰に添えて、歩いた時に刀の揺れを止める様にイメージする
3.右手肘を曲げて脇につける。右拳を軽く握る
4.右足を振り出すと同時に右拳を少し突出し足の振り出しの補助をする
5.イッチ、イッチ。イチニイ、イチニイ。ワンツウ、ワンツウ
など二拍子で調子を取りながら右拳をほんの少し突出し、右足を振り出す
(この場合腿はほとんど上げず足裏は地面を滑る程度の高さが良い)
6.調子をとって100mも歩けばもう「なんば」は完成している
7.次に両手の肘を曲げてやってみよう、この場合も右手右足
のみ意識していれば左はついくる
8.安定して歩けるようになったらわずかに腕をふる(気持ちだけでもよい)
こうして歩けば「なんば」歩行をしていることは他人にはほとんど気ずかれない
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■デ−タの説明
ほぼ毎朝1回、約3kgの荷を背負ってウォ−キングシュ−ズを履いて歩行の検証を行った。
6km程を歩いてウォ−ミングアップした後1500mの里程標を利用してラップタイムと歩数を記録した。時間の計測にはストップウォッチ、歩測には万歩計を使用した。1500mの里程標は神田川沿いの面影橋から江戸川橋まで500m毎に設置されている標柱を利用した。この里程標は文京区が設置したものだが距離精度は不明である。
1500mの歩数は2080歩強の場合で歩幅72cmをキ−プできている。
ラップタイムは15分を中心に前後3%以内、大半が2%以内の誤差に収まっている。
歩幅も72cmを中心とするとほぼ3%以内、大半が2%以内の誤差に収まっている。
この実験では雨天時のデ−タは装備の状況が変わるためデ−タに幾分の違いが出るの
で省いている。

■「なんば」歩行の検証
1500mの距離を1km/10分のペ−スで「なんば」歩行を繰り返して無理なく歩ける歩幅を探す。現在ではまだ完全ではないが私の場合の歩幅72cmあたりが安定するかも知れない。ただ、「なんば」歩行では歩幅を大きくしてゆくより、小さくしていく場合のほうが無理がなさそうであるから70cmでも69cmでも安定化は可能かも知れない。あるいは伊能忠敬の歩幅が72cm近辺だったかも知れない。いずれにしても現段階では私と伊能忠敬との歩幅の接点は見えたように感じる。
神田川芭蕉の会の会員だった故森崎益夫さんが表した「松尾芭蕉は忍者か」という著書の中で述べている歩行法(走法)は「なんば」歩行を踵をつかない「つま先」歩きの方法である。挿し絵をご自分で入れているので大変分かり易く、参考になる。
「つま先」歩きあるいは走りは歩幅を極めて狭くできる。例えば祭りの「御輿」担ぎをイメ−ジすればよく理解できる。足踏みでも後退でも安定した歩行を確保できるのである。
■幕引きに際して
私が徒歩出勤を始めてから15年にはなるだろう。3kg程のズックのカバンを背負って9kmの道を歩くのだが、すぐに問題が起こった。それはカバンが揺れて着ているシャツが擦れてしまい、1日2日の間に穴が開いてしまうのだ。そこで山で使うチョッキで背中を保護して歩いいた。しかし、穴は開かないもののチョッキも腰部分が擦れて捻れてしまっている。「なんば」歩行を行えば、きっとカバンの揺れは無くなるだろうことは解っていたのだが、なかなかトライするきっかけが掴めなかった。
最近になってやっと「なんば」歩きに成功して、今では快適に江戸時代の生活時間を楽しんでいる。しかし、カバンの中身がコンピュ−タと携帯電話とデジタルカメラいうのがなんとも現代的ではある。
平成13年12月24日
■参考となるインタ−ネットのサイト
http://www.sw.nec.co.jp/el/special98/summer/morning.html
http://www.asahi-net.or.jp/~ff4a-tky/swan/swan19.htm
http://www.kudo-gumi.co.jp/kudo_3-2.html
http://www.asahi-net.or.jp/~wa7y-inue/ino3.htm
http://www.mainichi.co.jp/eye/iwami/okachi/2000/chiba02.html
http://www.nk-hart.co.jp/special/hartnews/hart10/p04.html
http://www.gem.kurume-nct.ac.jp/~kidera/index.html
http://www4.justnet.ne.jp/~amuro1/golfdahou.htm
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